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「がはっ、く、畜生っ!」
若い男は全身傷だらけになり、息も絶え絶えである。
「俺の……夢が……もう、駄目なのか?」
若い男は拳を握り締め、歯を食い縛り、目に涙を浮かべた。
自分の夢が潰えようとしている。若い男が悔しがるのも当然だ。
「こんな感じじゃが、どうかの?」
老人は、二人の戦いを黙って聞いていた妙齢の女性に話し掛けた。
妙齢の女性は、椅子に座ったまま、なにやら考えている様子である。
老人は、戦いの勝利を確信したようで、首をぐるぐる回してくつろいでいる。
「ふう。早速、奴にも報告せねばな……。なかなかいい土地を、格安で売ってくれたからの。相手も思った通り、弱くて助かるわい。まあ、奴は返せと言うじゃろが」
老人はすっかり安心したようで、満足げな顔をして、上機嫌で独り言を言った。
(格安? 思った通り? 返せと言う? どういうことだ)
若い男は、倒れながら、所々聞こえてくる老人の声に耳を傾けていた。若い男は思考を始める。そして、何かに思い至った様に言う。
「もしかして──」
暫くして、これまで行動していなかった女性が、ゆっくりと立ち上がった。そして口を開きかける。
「待った!」
若い男は倒れたまま、女性に向かって叫んだ。
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