Ⅰ. 招待状

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それは、突然私の元に届いた。 いつもと変わらない日常。 いつもの水曜日。 朝早くに作った弁当を持ちながら、夫と子供たちを見送るため玄関から少しだけ体を見せる。 無邪気に階段を駆け降りる息子。 それを慌てたように追い掛ける娘。 そして、その後ろからは諭すような優しい声が続いて行く。 その優しい声の主は、顔だけでこちらを振り返ると、「行ってきます」と、笑みを浮かべた。 私は、そんな彼に答えたあとで、ふぅ、と溜息を一つついた。 いつもと変わらない日常。 キラキラと輝く私の幸せが、そこに在る。 短大を卒業後、地元を離れて就職した先で出会った人。 5歳年上の営業マン。 知性も財力も、何もかもが自分より上で、始めはただの憧れでしかなかった。 けれど、いつしか互いに惹かれあい、私が23歳の時に結婚した。 何も結婚を急ぐ理由はなかったけれど、多忙な中で少しでも同じ空間にいたいと思う彼と、縦社会という窮屈な職場にうんざりだった私が出した結論だった。 寿退社の1年後、私は長女を出産。その3年後には長男を身篭った。 そして今、私はまた新たな命をお腹に授かって居る。 それを知ったのはつい先日。 体調が悪いから…と受診した先で思いがけない報せを聞いた。 37という年齢のせいか、嬉しいような、気恥ずかしいような想いで主治医の話を聞いていた。 そのせいか、家族にはまだ報告出来ずにいる。 私は、家の中へと戻る前に郵便受けへ向かった。 それも、いつもの日課。 郵便受けには、新聞の他にスーパーのちらしやダイレクトメールが押し込まれて居た。 とりあえずその全てを掴み、目を通しながら玄関へと戻る。 すると、その中に一際目を引くピンク色の封筒を見つけた。 早速、宛名を見ると立派な毛筆で夫と私の名前が書かれていた。 裏を返すとそこには、見覚えのある名前と、そうではない名前が綴られている。 「鈴木…和真…?」 私は、見覚えのある名前だけを声に出して読むと、力なく玄関のドアを引いた。
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