Ⅰ. 招待状

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鈴木和真。 それは、私の人生を語る上では、不可欠な人物だと言っていいだろう。 彼と出会ったのは、もう26年前のこと。 同じ土地で同じ年に生まれ、同じ場所で学んだ。 それは、必然という名の運命。 もはや、私たちが仲良くなるのに理由はなかったし、中学・高校と成長するにつれて私たちの関係が友人から恋人へと変化したのも当然のことだった。 私は高校時代のほとんどを彼と過ごした。 勿論私にも彼にも友人は居たけれど、私たちは2人で居ることが圧倒的に多かった。 それで良かった。 彼が側に居てくれるだけで、私は良かった。 時間が流れ、私たちは地元で進学することを決めた。 彼は四年制の大学へ。私は彼と同じ大学の二年制へと進んだ。 何も変わらない日々。 2人で居る生活。 それは、脆くも崩れ落ちてしまう。 同じ学校だとはいえ、学部が違えば生活も環境も違うのが大学というところ。 すれ違いの毎日の中で、募るのは不安ばかり。 それ故につまらない束縛や疑いばかりが増え、疲れ果てた彼の心は、他の女性へと奪われてしまった。 それまでの幸せが、音をたてて崩れた瞬間だった。 それでも彼を想う気持ちは消えずに、辛い毎日は私の食欲さえ奪っていった。 日に日に痩せ細る私を見兼ねた友人たちは、次第に私を遊びに連れ出すようになった。 それでも私の心には、淋しさだけが残る。 何かに縋り付きたくなる程に、私は彼を愛して居た。 だからこそ、 “彼の代わりが必要” だった。 私は、ソファーにもたれ掛かると、封筒の封を切った。 中には半分に折られた厚紙が1枚入っていて、窮屈そうに口を開いて居た。 来たる九月八日に、 新郎・鈴木和真と 新婦・横井理香の 結婚披露宴を執り行うことと相成りました。 つきましては、是非ご出席賜りたいと存じ、お知らせした次第でございます。 「結婚…するんだぁ。」 初夏を彩る景色は、カーテン越しにゆらゆらと揺らめきながら、私の意識をいともたやすく呑み込んでいった。
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