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お母さんの部屋のドアノブに手を伸ばそうとすると、中からお母さんの酷い咳をする声が聞こえた。急いでドアを開けて入ると、お母さんは口にハンカチを当てて、背中を丸め、辛そうな顔で咳をしていた。
一瞬私が入って来たのに気付いて笑おうとするけど、それは咳に阻まれる。私にはお母さんの背中を擦るくらいしか出来なかった。
やっと咳が止まって、ひと安心かと思ったけれど、お母さんが口元から押さえていたハンカチを外せば、そこには真っ赤な血がついていた。
「おっお母さん!大丈夫?!今お医者さん呼んで来るよ!」
「スピカ、いいからここに居てちょうだい。お母さん大丈夫だから。もう夜も遅いしね」
「で、でもお母さん……」
「スピカが隣で寝てくれたら、お母さん温かくなってすぐに元気になるわ。ね?」
そう言ってお母さんはにっこり笑ってみせる。今思うと、そんな嘘を信じた自分が悲しくなる。私があの時、誰か人を呼んでいたら、薬草について知っていたら、回復魔法を使えたら、なんてくだらないことを考えてしまう。もうあの時間に戻ってやり直すことなんて出来ないのに。
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