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目の前には、白い布で顔を覆われた誰かがベッドで横になっていた。まとまりなく四方に飛散する髪は黒く、長い。私にソックリだ。
「泉!! お願い、目を覚まして……嘘でしょ……? ねぇ……? 冗談だって、言ってよ……」
隣では、私の名前を呼びながらママが泣いている。どうしたの? 私ならここに立ってるじゃん。
そうハッキリと言っているのに、ママはピクリとも私の声に反応しないどころか、より泣き崩れる。
これは新手のいじめなのかと、痺れを切らした私は、ママの肩を叩こうと手を伸ばす。刹那、私の手は、ママの肩を擦り抜け空を切った。
「泉……どうしてなの……泉……」
放心するママは、顔を覆う白い布に手を掛け取り去る。そこに横たわっている人間は私だった。
本当は解っていたのだ。ママが私の名を呼んだ時から。私が、死んだことくらい。
ただ、現実味のないこの状況を否定したくて。その否定に足る理由を探していただけなのだ。
そっとママの肩を抱くパパの眸もまた、涙で濡れていた。
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