01:お別れも言えなくて

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  蘇るのは記憶、そして実感。これは所謂幽体離脱って類の現象なのだろうか? 単なる夢なら早く覚めてほしい。寧ろ、夢であってほしい。 私こと、橘 泉(タチバナ イズミ)は、大層困惑していた。事実は単純明快で、ママとショッピングへ向かう最中、暴走し歩道に乗り上げてきた車にひかれ、治療の甲斐なく敢えなく昇天。 そこらじゅうにごまんと転がっている親子水入らずの場面に、まさか車が突っ込んでくるとは。もし、神や仏というオカルト存在の気紛れなら、ほとほと辟易する。     そして、今。私は分析の及ばない盤面に駒を置いている。仮に、幽体離脱なるものがあるとして、私の現状がそうだとしよう。 しかし、身体が機能していないというのに、視覚聴覚は勿論、五感がこうもハッキリしているのだ。私の脳は活動を停止しているのに、どうしてこうも機能が以前と変わらぬのだ。考えられてしまうのだ。   私は本当に死んでいるのだろうか? そんな疑問も当然抱く。しかし、母の嗚咽する姿を前に、淡い期待も跡形もなく消え失せた。途端、私の存在するはずのない思考回路がフル稼働。絶望感に似た罪悪感が私を蝕み始めた。 ママが泣いている、私のせいで。 「私は、ここにいるよ……?」 声は、出てる。なのに、ママもパパも振り向いてはくれない。ただ、横たわる私の組んだ状態で硬直した手を両手で包み涙を流すだけ。  
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