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「うわっセリム大丈夫か!」
あちこちから色んな声が飛び交う中。俺が気になっていたのはただ一つだけだ。
メリルさんがどんな顔をしているか。ゴミを見るような目で俺を見ていないだろうか。軽蔑しているんじゃないだろうか。もう俺は、死にたいほどだった。そんな俺の、背中をさする手が──。
「大丈夫かセリム。気分が悪いか?」
メリルさんだった。ああ、この人は優しくもあって……ダメだ。迷惑をかけてはいけない。
「大丈夫です。ちょっと変な感じになっただけなんで……すいません、自分で片付けます」
「無理はするな?」
その時、俺に向けてくれた顔。本当に心配してくれているのだと分かる。面識もなかったこの俺に。本当に、幸福な気分だった。
一人の少年の恋の話。彼が勇気を出さなければ、メリルは閉じたままだった。彼の勇気が、全てを起こした。だが彼はそのことを知らない。知らないまま、メリルのあの表情を胸にしまい、今日も一人訓練施設へと向かう。
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