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「はぁ、はぁ、はぁ……」
息を荒げ勢い良く起き上がった少女――神崎 美羽(かんざき みう)は辺りを見回した。
スカスカの木製の本棚に、ノートパソコンと鉛筆立てが置かれただけの木製机。
飾り気の一つもない殺風景な部屋には、色褪せた黄色いカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
見慣れた自分の部屋に、ゆっくりと夢から現実へと戻っていく。
「また、あの夢か」
繰り返す悪夢は幼き日の思い出で、忘れたくても忘れることの出来ない過去だった。
パジャマの袖で涙を拭い、袖口のほつれに視線を落とす。
「このパジャマ、もうぼろぼろだな。……私にはお似合いか」
自嘲しつつベッドから降りると、家族に会わないように足音を忍ばせ洗面台へと向かう。
洗面台の鏡には目を赤く染めた自分が映っていた。
肩より少し長めの黒髪をつまみ上げ、滲む視界に不規則に緩いカーブを描く髪を確認する。
「こんな髪じゃなかったら、いじめられなかったのかな……」
頬を伝う涙を吹き飛ばす様に、美羽は激しく頭を振る。
始まりなんか覚えていない「いじめ」に、癖毛なんて関係なかった。
癖毛だからいじめられたわけじゃない、あれはいじめのほんの一部だった。
自嘲しつつも止まる事を忘れた涙。
赤く腫れた目を理由に、バイト先で嫌がらせを受けたくはない。
――「いじめ」にきっかけはあっても、理由なんて必要ないのだから。
美羽は手に掬った水でゆっくりと目を冷やすように、顔を洗い始めた。
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