1302人が本棚に入れています
本棚に追加
/853ページ
打ち寄せる波は夕日に輝き、潮騒を奏でる。
浜辺の砂は波の揺り篭に身を任せ、舞い踊る。
穏やかな時がゆっくりと進む。
その様は、先程までの出来事を完全に無視しているかのよう。
……とても美しく、儚い。
少女は砂浜で座り込み、長いまつ毛を持つ大きな目から、大粒の涙を零していた。彼女の涙も夕日色に染まり、宝石のような淡い輝きを放つ。
少女の目の前には青年が力なく横たわっていた。呼吸による胸の上下は確認できるが、その間隔は短く、そして浅い。
「ねぇ……夕日、綺麗だね?」
「……うん」
少女は青年の問い掛けに頷く。その拍子に涙がポタリと落ちて海に溶けた。
「泣くなよ……」
青年の言葉は弱々しく、波の音に飲み込まれてしまいそうであった。
「新しい人……俺と違って君をちゃんと守ってくれる人を探すんだよ?」
少女の手に青年の掌がそっと覆い被さる。弱々しく握られた青年の掌のぞっとする冷たさに彼女は驚く。
少女は彼の掌を握り返しながら、静かに首を横に振った。
「あなたはちゃんと私を守ってくれたよ? あなた以上の人なんて、いないよ……」
ポタリ。再び落ちた涙は宙を舞い、今度は海に落ちることなく、青年の手の上に乗った。
青年は手の甲に落ちた小さな宝石を見て力なく、微かに笑った。
それは彼がいつも浮かべる笑み。
彼女を包み込む温かなもの。
だがその微笑みは、恐らくもう見ることができなくなるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!