プレリュード

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 打ち寄せる波は夕日に輝き、潮騒を奏でる。  浜辺の砂は波の揺り篭に身を任せ、舞い踊る。  穏やかな時がゆっくりと進む。  その様は、先程までの出来事を完全に無視しているかのよう。  ……とても美しく、儚い。  少女は砂浜で座り込み、長いまつ毛を持つ大きな目から、大粒の涙を零していた。彼女の涙も夕日色に染まり、宝石のような淡い輝きを放つ。  少女の目の前には青年が力なく横たわっていた。呼吸による胸の上下は確認できるが、その間隔は短く、そして浅い。 「ねぇ……夕日、綺麗だね?」 「……うん」  少女は青年の問い掛けに頷く。その拍子に涙がポタリと落ちて海に溶けた。 「泣くなよ……」  青年の言葉は弱々しく、波の音に飲み込まれてしまいそうであった。 「新しい人……俺と違って君をちゃんと守ってくれる人を探すんだよ?」  少女の手に青年の掌がそっと覆い被さる。弱々しく握られた青年の掌のぞっとする冷たさに彼女は驚く。  少女は彼の掌を握り返しながら、静かに首を横に振った。 「あなたはちゃんと私を守ってくれたよ? あなた以上の人なんて、いないよ……」  ポタリ。再び落ちた涙は宙を舞い、今度は海に落ちることなく、青年の手の上に乗った。  青年は手の甲に落ちた小さな宝石を見て力なく、微かに笑った。  それは彼がいつも浮かべる笑み。  彼女を包み込む温かなもの。  だがその微笑みは、恐らくもう見ることができなくなるのだ。
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