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「泣いているの?」
そう言われて初めて俺は泣いていることに気づいた。
「ああ、泣いてるよ、何もないから泣くしかないんだ、何もできないから泣くしかないんだ」
俺と赤ちゃんに違いはない。
いくら俺の方が腕力が優れていたとしても、いくら俺の方が頭が良くても、結局は何もできやしないんだから。
「あんたには、水野さんには理解できないよ」
そう言って、俺は悲しく微笑んだ。
「何それ……」
気づくと、水野さんは、うつむいて、手を真っ赤に握りしめていた。
「あんたそれでいいの?人生をつまらないまま終わらしていいの?なんで頑張れないの?なんで……なんで……」
最後にはか細い声だけが残り、水野さんは涙を一筋流していた。
「……頑張り方が分からないんだ、何をどうすればいいのか分からない、どうやっていきれば楽しいのか……人生にマニュアルがあればいいのに……」
俺は、自分の思いを吐き出す。
人生のマニュアル。それは、俺が一番求めていたものだった。
マニュアルさえあれば、何も考えずに、悩まずに生きていける。
でも、そんな都合のいいものなんてありはしない。
だから、俺はひたすら孤立していく。
そして、俺よりも底辺にいるやつがいる……そう自分を慰めていく内に自分自身が一番の底辺になっていった。
だけど、諦められなかった。
諦めることは、享受することだ。今の現実を享受することなんて俺にはできない。
だから、俺は、死という甘美な逃避を選んだ。
けれど、俺は死ねなかった。
だから享受するしかない。
この苦痛な現実を。そして生きていくのだ。いくら辛くても、もう死ぬことなんてできないのだから。
「分かったわ」
ふいに水野さんが言った。
「私があんたに、生き方を教えてあげるわ!」
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