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柵にかける手が震える。
本能が死ぬことを拒否しているのだ。
それを俺は、暗澹たる気持ちでみていた。
今死ななくてどうする?
ここで死ぬことを諦めたら、次に死ぬことを覚悟するときなんて来るはずない。
今やらないことは、一生やることはない。
俺は、震える手を思い切り、地面に殴りつけた。
皮がズルリと剥け、血が地面を朱色に染めた。
痛みにより、手の震えは止まり、俺は滴る血を無視して、再び柵に手をつけた。
そして、柵を乗り越えて、僅か30センチ程の隙間に足を下ろした。
ふぅ……。
深呼吸をする。柄にもなく、緊張している。
嫌な粘っこい汗が体中を這い、心臓がバクバクと壊れそうなほど高鳴っている。
あと一歩。あと一歩踏み出せば俺は死ぬ。
そう思うと、安堵と共に抗いようのない恐怖が襲ってくる。
体中がガチガチと震え出してきた、ここらが限界だろう。
飛ぼう。
そう思った。これ以上このままの状態だと俺は飛べなくなる。
だから、飛ぼう。
その時だった。
今、誰も開けるはずのない屋上への扉が開かれた。
俺は、急いで振り返った。
そこから、現れたのは、同じクラスの水野 早苗さんだった。
水野さんがこちらを見た。
驚いた顔が見える。
スローモーションのように、必死な顔で水野さんの口が動いた。
俺は、彼女が何を伝えようとしたのかを知らない。
なぜなら、俺の足はすでに自由をなくしていたからだ。
そして俺は、体中に風を纏い、落ちていった。
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