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辺り一面に闇が広がり、電信柱に設置されている薄汚れた街灯は、弱く己の姿のみを晒し続ける。
街外れの路地──、
それが、たまたま丑三つ時であった事と相俟って、人の声や車の走行音などは全く耳に入らない。
風も止み、無音の圧力にこそ、寧ろ煩わしさを感じる。
「……私の、勝ちかな」
上下灰色の綺麗なスーツに身を包んだ男は背が高く、体格も良い。しかし、この薄汚い路地の暗闇では少々場違いに感じる。
スーツの着こなし加減を見ると、一般的な社会人のそれを思わせるが、手にした異形のナイフによってそれを否定している。
「……うむ。参った」
そう低く唸ったのは、暗闇の中で鈍く光る、黒皮のトレンチコートを着込んだ老年の男性である。
夜闇にてしっかりと確認は出来ないが、少なくとも簡単には立ち上がれない程の深手を負い、壁にもたれかかるように倒れていた。
「大した傷も付けられんかったか。……してやられたわい」
老人は身動きをとらず。いや、とる必要は無いと判断し、自分の口のみを動かした。
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