789人が本棚に入れています
本棚に追加
スーツ姿の男は止めを刺さずに、余命を残す方を選択した。
この老人と戦い、勝利し、少し話をしてみたいと思ったからだ。
「……次があればの」
「そうだね。戦った中で、まともに反応出来たのは、貴方だけだったよ」
貴方だけ。
つまり、男は老人と同じような相手と剣を交えたのだろう。
その人物に心当たりがあるのか、老人の一見して好々爺な雰囲気が、一変して鋭く尖った物になる。
「ほ、それはそれは……。益々殺してやりたくなるわい」
男は老人の恫喝に眉一つ動かさず、冷厳な様子で見下した。
「なんであれ、私の勝ちだ。止めはいるかい?」
「いや結構。もう少しここにいるよ」
「……そうか」
男はそう言うと老人の方を向きながら、警戒した様子で足早に立ち去った。
老人はじっとその姿を見送ると、それとは反対方向に視線を切り替える。
「……ガジナ? 無事か?」
再び静まり返った暗闇に、若く透き通った女性の声が響き渡る。
最初のコメントを投稿しよう!