プロローグ

3/5
前へ
/752ページ
次へ
 スーツ姿の男は止めを刺さずに、余命を残す方を選択した。  この老人と戦い、勝利し、少し話をしてみたいと思ったからだ。 「……次があればの」 「そうだね。戦った中で、まともに反応出来たのは、貴方だけだったよ」  貴方だけ。  つまり、男は老人と同じような相手と剣を交えたのだろう。  その人物に心当たりがあるのか、老人の一見して好々爺な雰囲気が、一変して鋭く尖った物になる。 「ほ、それはそれは……。益々殺してやりたくなるわい」  男は老人の恫喝に眉一つ動かさず、冷厳な様子で見下した。 「なんであれ、私の勝ちだ。止めはいるかい?」 「いや結構。もう少しここにいるよ」 「……そうか」  男はそう言うと老人の方を向きながら、警戒した様子で足早に立ち去った。  老人はじっとその姿を見送ると、それとは反対方向に視線を切り替える。 「……ガジナ? 無事か?」  再び静まり返った暗闇に、若く透き通った女性の声が響き渡る。
/752ページ

最初のコメントを投稿しよう!

789人が本棚に入れています
本棚に追加