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女は即座に老人の下へと駆け寄り、膝を衝いて屈んだ。
街灯の微かな灯りに、女の姿が照らし出される。
青いロングスカートに黒い外套を羽織った姿は、夜目に確認するのは至難の業だろう。
「……ガジナ。仇は必ずや私が──」
女は冷静ながらも、怒気を孕んだ声で老人に話し掛ける。
「逸るな」
しかし、ガジナはぴしゃりと女の言葉を遮った。
「まずは本国へと戻り、兵を掻き集めろ」
「な……」
「その間に、儂らの魂はきちんと保管しておけ、然るべく後にそれを使うのだ」
数秒の間が空く。女は観念したように、怒りを振り払った。
「……わかった」
しゅんとした様子の女は立ち上がり、スカートをふわりと揺らして背を向けた。
「……では、また会おう。将軍」
ガジナは皺と年季を溜め込んだ顔で力無く微笑み、満足そうに頷く。
「それで良い。尊ぶべきは計画の成功よ」
そう言い残したが最後、老体は糸が切れた絡繰が如く、地に伏せたのだった。
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