第一章:種

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「おいおい、そりゃあ反則だろうよ」  太郎はやれやれ、といった様子で溜め息を吐いた。 「誰のせいで俺らがクラスの二、三を争わなきゃいけないと思ってんだ?」  昭仁、太郎にとって愛子は届かぬ壁。高校入学から一度も成績を抜いた事は無い。  しかし、両名共に学年順位は優れているため、彼らが悪い訳ではない。 ただ単純に、愛子の頭脳が二人を上回っているだけなのだ。 「お前のせいじゃ!」  太郎は右手で愛子の眉間あたりを指差した。  その言葉を聞いた愛子は、一瞬ムッとした表情の後、やけになったかのように太郎に食らいかかった。 「……峰君が頭悪いからだよっ!」 「あっ! てめ、この」  太郎は即座に愛子の頭を右腕で抱え込み、頭頂部に左拳を押し付けた。 「痛い! 痛いよ」 「今の悪口は神原にも言ったことになるからな!」 「いーたーいー!」  ところが、やり取りを続ける二人に悪意は微塵も無く、その有様を昭仁は微笑ましく眺めていた。
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