「運命の明かり」

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百代が鎌倉署を出てきたのは午後三時過ぎたころだった。 風はいつの間にか止んで、少し西に傾いた太陽はまだ高くて夏の気配が感じられた。 鎌倉署に連行された百代は、これまでに至るリョウとの経緯を洗いざらい全て話した。 すると、以外にも警察の同情は加害者となった百代の方に傾きはじめたのだ。   話しを聞いていた年配の担当刑事は、リョウの余りに卑劣極まりない行為に腹をたて“今すぐ名誉毀損で被害届を出せば、アイツをこの場逮捕してやる”とまでいい始めた。 しかしこれ以上リョウと関わりを持ちたくなかった百代は、横山と電話で相談した結果、ネット上にばらまかれた画像や誹謗中傷のコメントを出来る限り削除する事と、骨折させた鼻の被害届を取り下げる事で示談の取引をした。 「姉御!お勤めご苦労様でした!」 凛が興奮して鼻を膨らませている。 「警察の前でそんなデカイ声で止めてくれる!」 「しょうがないよ、あんなの目の前で見せられたら、いゃ~姉さんスカッとしたよ!」 「なんであんたがそんなに興奮してんのよ?」 「だって、あのえげつない腐れ変態野郎を血塗れにしてやって…なに、どうしたの?」 百代の気の抜けた顔を見て凛が聞いた。 「あいつ、ヤクザに追われてるんだって」 「ヤクザぁ!」 「ん、私と別れた後、調子に乗って独立して店出したんだって、そしたらこの不景気ですぐ行き詰って何千万も借金抱えて逃亡…」 「どうしょうもないじゃん!いい気味だ、」 「で、偶然テレビに出てた私見つけて、ムシャクシャしてやったらしいよ、」 「なに!嫉妬?ジェラシー?最低だな!」 「無我夢中でぶん殴っちゃたけど…なんか後味が悪いよ」 「同情することなんかないし、なんの後ろめたさも感じることないよ」 百代はリョウに未練の欠片の一つもなかった。 なのに胸の奥がズキンと痛んだ。 久しぶりにリョウの肌に触れた拳を見つめると、少し赤く腫れていたが痛くなかった。
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