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まるで新人のキャバクラのスカウトマンの様にオドオド声をかけてきた横山に、『まにあってる!忙しい!』と間髪入れずに半ば怒鳴るように応えたのが最初だった。
その時横山はまるで子犬のように目お潤ませ、たじろぎながらも百代に言った。
『あ、あ、あ、あなたは間違えなく大スターになれる、大女優に…』
小刻みに震える手で渡した名刺には[インフィニティー・プロダクション 代表 監督 横山修太]と書いてあった。
社長?監督?
百代はしばらくその名刺と胡散臭い横山の顔を交互に睨めつけた。
そして駅ビルのカフェに行きAV女優だと知らされた時、百代は爆笑しながら言った。
『やる』
そのあまりにもキッパリとした早い決断に、横山は目を丸くして再びたじろいだ。
ギャラもいいしキャバクラの人間関係にもサラ金の取り立てにも、いい加減嫌気がさしていた百代のタイミングだった。
性格上あまり物事考えずに判断する百代だが、それは決して曖昧ではない責任ある答えだった。
横山はこの時まだ震えが止まらなかった、自分の理想の全てが百代には備わっていると感じて興奮が収まらなかった。
整形歴があるにしても整った顔立ちに、引き締まった体に突き出るバランスの良いバスト、そして何よりも横山はオーラを感じたのだ。
この業界ではまだつたないキャリアでしかない横山にでも、ひしひしと感じられるぐらい百代の異性を惹き付けるオーラは別格だった。
横山の確信が結果と変わるまでに差ほど時間はかからなかった。
デビューにして初主演作はAV界の歴史を変えてしまうほどの大ヒットし、SNSでその噂は瞬く間に広まった。
強気のキャラクターで大胆に突き進みながら、時折見え隠れする22歳の恥じらい、それは演技云々と言うより彼女だけが特別に持ちうる本能でしかなく、自然と嘘の無いエロスと興奮の世界へ見る者を引き込むのだ。
AV女優コスモの誕生は同時にスーパースター誕生となった。
今では深夜枠のテレビ番組にまでよばれるほどで、自叙伝の執筆の話すら出ていた。
百代はロマンスカーの窓に映る自分に向かって呟いた。
「コスモは何処まで行くのかよ…」
百代の借金はとっくに全て無くなっていた。
欲しい物を少し我慢できる女になっていた。
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