第一話:天C

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 俺は何事も無く、去年買った目覚まし時計で起きるはずだった。それがどうだ、その目覚まし時計は瓦礫に埋もれ、見上げれば舞い上がった埃の向こうに快晴の青空。 「夢か」  俺は言い切って再び床に付いた。 「んなわけねェな」  再び起き上がってひとりごちる。そして喋っている間に埃を吸い込んでむせた。  隣の部屋からがらりと窓を開ける音がする。すぐ閉じる。恐らく隣の部屋の住人はいまごろ頭を捻っていることだろう。文句なしの快晴日に雷の落ちたような音がしたわけだから。  残念ながらその音の出所は俺の部屋である。隣人は少なくとも午前の間くらいは不可解な現象が頭をチラつくだろう。そう思うと少しだけその隣人が不憫に思えた。  さて、少し頭が冴えてきたところで周りを見回してみる。  必要最低限の備品に小さな本棚と一世代前のゲーム機。これが俺の部屋だ。壊れて、あるいは盗まれて嘆くほど高いものはこの部屋には無い。どの部屋にもないが。  どの家具にも問題は無い。まあ多量の埃を被ったせいで少々白っぽくなってしまっているが、それは後でぬぐえばいい。  地震かと思うほどの強震でも窓ガラスは無事だった。ここに越してきて二年経つが、一度も拭いてないのに窓ガラスは綺麗なままだ。ある街では製紙工場のせいで、一年の間に窓ガラスがふさふさになった。アレはどう考えても問題があるだろう。  ……目を逸らしても現実は非情だ。眼前に広がる瓦礫はそこに鎮座したままどいてくれそうに無い。  上を見上げれば、ぽっかりと開いた天井の穴から空が見える。 「あ、鳥が飛んでらァ」  総瓦葺き二階建て、一DK六畳半月額四万五千円の部屋に、穴あき瓦礫付きというファンシーな要素が追加された。実に笑えない。  布団の上にも瓦礫の一端がのしかかり、あたかも猫が上で寝ているかのような、ゆるやかな重みが伝わってくる。これが瓦礫なのだからありがたみが無いというものだ。
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