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俺は溜息を漏らす。
「なあ、いつまでそうしてるつもりなんだ」
俺は瓦礫の中心で突っ立っている人影にそう呼びかけた。
「あ、気付いててくれたんだ」
起床してから今に至るまで、始終俺を見つめ続けていた人影はダンディなテノールボイスでそう言った。そう言いながらフラミンゴのように立ち、右足で左脚のすねをぼりぼり掻いている。
身長は百九十をゆうに超え、整った顔立ちにうっすらと筋肉のラインが見える身体、映画俳優だと言われても合点がいくスタイルだ。無精ひげや荒れた髪型、ぼうぼうのすね毛を加味してもそう言える。
そしてまた服装が奇抜だ。天使の着るような一枚布の羽衣。手首や足首、首や腰には細い金色のリングが付けられている。足元を見れば、やはりというか木靴である。翼や天使のわっかは見当たらないが、これはまさに天使と言っても遜色無いだろう。
「あんたは一体、なんなんだ?」
「天使さ。頭上のリングを見りゃ分かるだろ?」
自称天使は両腕を目一杯広げてみせる。なんとなく神々しいような気がしないでもない。今のところはただの変人だが。
俺は彼が気付いていないようなので、頭上にあったのであろうリングを指差してやる。
天使はとぼけたような顔をして手探りで自分の頭上のリングを触ろうとする。しかし当人だけ見えているリングというわけでもなかったらしく、その手がリングを掴むことは無かった。
「やっべ、輪っか落としてきちゃった」
俺はまたしても溜息を漏らした。彼は天使。果たしてそれでいいのだろうか。とりあえず――、
「とりあえず名前を聞こうか」
名前を聞いておこう。
天使は特に驚いた風でもなく、至って落ち着いた物腰で自己紹介を始めた。
「シィだ。シィ・サミュエル・エルラスター。サムでいい」
「うん、天界のシィだから天Cでいいよね」
俺はそれを問題なく分断する。天Cか、まさしくいいセンスだ。
天Cは俺のセンスに脱帽したのか、話の腰を折られたのかは定かではないが、呆然としたまま黙り込んだ。
どうやら見た目ほど人外魔境な奴でもないらしい。というか天使という線も怪しくなってきた。
手始めにそのあたりを確認しておくのも悪くないだろう。
「なあ、天C。お前って天使ー?」
最高のギャグである。
なにしろ天Cはそれで蘇生した。
「天Cは勘弁してくれ。サムだ、サム。まあ、天使という部分は合ってる」
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