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「じゃあ魔法とか、使えるのか?」
天C、もといサムはフムと唸ったが、別段考えることでもなかったらしく黙ってうなずいた。
「そいじゃ、何かやってみせてくれ――」
俺は言いかけて口をつぐむ。天Cの足元に片付けてもらいたいものがあるじゃないか。
「いや、魔法が使えるんだったらここの屋根を直してくれよ。それぐらい出来るだろ?」
「ん? ああ、そういやそうだったね」
天Cは空中から何かをつまみ出すような仕草をしていたが、途中で止めた。こいつ、ベタに花か鳥かなにか出すつもりだったな。それじゃ手品か魔法か判別できないじゃないか。
天Cはいままで踏んづけていた瓦礫の上からやっと降りると、おもむろに手を掲げて無言で祈りだした。
するとどうだろうか。間を置かず瓦礫や埃が宙に浮きだしていくではないか。中にはキロの壁を越えるようなコンクリートの塊もある。
(……よく潰されなかったな、俺)
俺が束の間背筋をひんやりさせている間に呆気なく修復は完了してしまった。大きな瓦礫はもちろんのこと、修復に使ったのか細かな埃もきれいに拭ったかのように消え去っていた。むろん天井には穴の痕跡はどこにも無い。
「おみごと……」
「それほどでもない」
当の天C、いやシィは天狗になっている。もとはと言えばこいつが原因だが、まさか本当に天使だとは思わなかった。少しは敬ってシィと呼んでもいいだろう。サムとは呼ばない。何かイメージと違うから。
「いや、ごめん、まさか本当に天使だったとは――」
一応謝罪を言おうとしたものの、俺は全ての台詞を言い切る事が出来なかった。何故ならあの凄まじい、雷のような音がもう一度して、再び俺の部屋の天井が大破したからだ。
部屋の隅にさっきシィが乗っかっていたのと同規模の瓦礫の山が出来上がり、その上にシィと同じ服装をした少女が立っていた。
「やあっと見つけたわっ」
少女はそう言い放ち、シィにびっと指を突きつける。
あいづちを打つかのように隣人の窓ガラスが勢い良く開かれる音がする。今度はすぐには閉じない。俺が彼女だったら爆発事故でも起きたか、さもなけりゃ戦争でも勃発したかと思うだろう。きっとそうだ。俺の部屋では今まさに修羅場が起きようとしているのだから。
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