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「やあ、レナ」
未だ布団に下半身を埋めた状態で呆気に取られていた俺に代わって、シィがいかにもフレンドリーに応えた。
「やあ、じゃないわよ。勝手に堕天するなんて、一体何を考えてるのかしら?」
「井戸水を汲もうと思ったんだけどね。うっかり落ちたらそのまま下界まで一直線だったよ」
天界に井戸かよとか、そこに落ちるのかよとか、井戸の底は空だったのかよとか、突っ込みどころは盛りだくさんだと思うが、レナと呼ばれた少女も何か言いたげであったので、ここはひとつ彼女へ譲ることにした。どこへ突っ込もうか迷った訳では決してない。
「あなたらしいわね……。それで、金冠はどうしたの?」
「どうも堕ちた拍子にどこかへ落としてきたらしいね」
彼女は盛大なため息を漏らして脱力した。どうもシィの返答次第では大変な事態になるところだったようだ。
「とはいえ、勝手に堕天するのは規律違反。しかるべく処罰を与えるために私がつかわされました。お分かりですね?」
「分かっているよ、レナ」
レナは瞬間、顔を赤らめて、すぐさまぶんぶんと顔を振った。
「一応上司なんだから、名前で呼ぶのよしてよねッ」
一応、ということは同輩なのだろうか。部下のイケメンダンディズムに名前で呼ばれただけでこうはならないだろう。少なからず好意を抱いているのだろうが、シィはどこ吹く風である。
「規約では最高で強制堕天もあり得ましたが、今回は事故ということで最大限に減刑されました。シィ、あなたは人間界で半年の謹慎、それから査問面談後、合格すれば天使に復帰となります。何か質問は?」
「始末書とか書かなきゃダメかな」
「そうですね……」
レナは何もない空中へ手を突っ込むと、そこから大ぶりの茶封筒を取り出した。何やら山盛りの書類が入っているようだ。
「ああ、あった、ありました。始末書を一枚、一週間後に取りに来ますから、必ず書いておいてくださいね。それからいくつかの通告書や連絡を記した書類がありますから、それも読んでおいてください。人間界での禁則事項などもありますから、読み漏らしが無いように」
「了解しました」
シィはレナが差し出した重量感のありそうな茶封筒を受け取って、これまた何もない空間にしまい、こもうとした。
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