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一度はシィの方へ向いたレナの顔が、実になめらかにゆっくりとこちらへ向いた。ふたりとも笑顔のままなのが不気味だ。
レナが、空中に手を差し込んだ。そして間髪入れずに取り出したのは、馬鹿に大きい筒……ではなく、パーティーで使われる大砲クラッカーのような銃だった。大きすぎてレナの後ろにいるシィが引いている。
「レナ、それ大人数用だよ」
それの威力を知っているらしく、飄々とした表情は一転して、明らかな焦りの表情がそこにあった。
「え……、ええ! そういえばそうでしたね」
レナはちょっぴり顔を赤らめて、まさに今、引き金を引かんとしていた大砲をあわてて空中へと引っ込めた。シィからファーストネームで呼ばれた時とはまた違った、恥ずかしさを含んだ照れ顔もやはり可愛いと言わざるを得ないが、ぶっつぁけそれどころではない。
やっちまったなあとでも言うような半笑いでシィの方を向いたレナが、今度は無骨なフォルムで妖しく黒光りする、アンティークな拳銃を取り出したからだ。
そういえばレナが大砲を取り出した時のシィの反応はただものでは無かった。巻き添えを食えば天使であろうとひとたまりもない代物だということがここから推測できる。
勇者諸君ならさも簡単であるかのように危機回避するのだろうが、あいにく俺は普通の人間である。
さてここで俺なりの回避手段を考えてみよう。一、レナから銃を奪うなり部屋から脱出するなり、アグレッシブな方法で華麗に切り返す。二、国家権力が突然踏み込んできて窮地の少年を救ってくれる。三、撃たれる、現実は非情である。
……どう考えても三以外の選択肢が無いのは問題があるんじゃないだろうか。
そしてそんな思索にふけっている間にレナの準備が完了してしまっていた。考えるまでもなく逃げてりゃ良かったと考えるのも後の祭りだ。いつの間にか出口はシィに塞がれているし、正面は銃を構えたレナが立ちはだかっている。
「冷静に、話し合いで解決しませんか?」
とは俺の言。
「無理です」
とはレナの言。
どうやら逃げ場はあの世にしかないようである。
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