9人が本棚に入れています
本棚に追加
――私は意識を取り戻した。
あれは、夢だったのか…
少し固いベッドに寝そべってたまま、夢を見たようだ。
しかし、風景はいつまで経っても眼前に現れない。目が覚めたからといって、目が見えるかどうかは全くの別問題だ。
それでも私は驚かない。わかっているからである。目が見えない事は。
それどころか耳も聞こえない。左手に指は無く、右手はどこかへ消えてしまった。戦地に忘れてきたらしい。右足も無く、左足は動かない…
目が覚めた今、考えは変わった。あの夢は悪夢などでは無かったのだ。この目で風景を見、耳で音を聞く。両手で闘い、全力で走る。左足を痛がる事も出来た。
今の私には何一つ出来ない、何一つ…
夢での唯一の心残りは彼女に会えなかった事だ。そりゃいくらなんでも都合が良すぎるが。
そして一番の喜びは、戦闘が五分だけだったという事だ。
ここでは何年も戦闘が続き、この病院には多くの怪我人が運ばれてくる…
今、少しベッドが揺れた。爆撃場所は、そう遠くない…
最初のコメントを投稿しよう!