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 ぱちん!  と弾けた音がした。  真っ暗だった空間はもう無い。  代わりに、先程とは対照的な真っ白な空間。  足元には今まで殺した者の死体。  これが私の生い立ちか、と自嘲気味に『彼女』は失笑した。  その死体の中に、自分がいた事も含めて。  ただ分かるのは、自分が―― 「うぐッ!?」  突然の痛みが脳を襲う。内から外へ響くような耐え難い痛み。  たまらず『彼女』は頭を押さえてうずくまった。 「あ゙……がぁっ……!!」  両手の平で痛むこめかみを押さえ、白い空間に膝をつく。  ほとんど声にならない叫びが何もない空間に細々と続き、爆発した。 「が、あぁぁあぁぁああぁっ!!」  『彼女』が叫ぶと同時に、頭部から赤い帯が風に舞うように飛び出した。  赤い帯は映画のフィルムのように一枚一枚場面が描かれており、それが『彼女』の頭から高速で抜かれていく。  一瞬だけ断片的に見える、その場面。  学校。  両親。  火の海。  死体。  辞書のような書物。  友人。  銀髪の女性。  青髪の女の子。  新しい家族。  幸せ。  それは紛れもなく、『彼女』の思い出。  それは遂に全て抜き取られ、赤い帯はどこかへ消えていった……。 「……愛しているぞ、私の娘たち……」  ぽつりと呟いたそれは、金の瞳という器から零れた一筋の涙と一緒に、赤い帯と同様白い空間へ消えていった。  それから『彼女』は、『彼ら』になった。
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