続0譚 ―始動―

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  「アマリア!」 不意に、後ろから自分を呼び止める声。 振り向くと… 「アリシア様……」 「ハァ…ハァ…、やはり、貴女だったのですね……」 紫のセミロングの髪を揺らしながらこちらへ駆けてくる女性…この国の王女、アリシア。 アマリアは優い目でこの少女の呼び掛けに答える。 「フフ……。また部屋を抜け出したのですか?」 「ち、違います! 私とて、もうそんなにやんちゃではありません……!」 「いえ、冗談です」 「もう……からかわないでください!」 頬を膨らますアリシアを見て、アマリアは優しく微笑んだ。 …ただの騎士と、帝国の王女。 本来ならばこのように談笑のできる間柄ではないのだが、いつからかこういう感じになっていた。 それも、初めは“名前が似ている”という、本当に下らない理由で。 「アマリアは……またお仕事ですか?」 「いえ、ただの散歩です。 何分、謹慎中の身ですので」 それを聞き、今まで明るかったアリシアの表情が曇る。 「すいません。 私にもっと発言力があれば、貴女をすぐ自由にしてあげられたのに……」 「――いえ、私が今こうして生きているのは、アリシア様が掛け合ってくれたお陰です。 私は、生きているというだけで十分。 アリシア様には本当に感謝しています」 そう言って、アマリアはアリシアの頭を撫で始める。 「わわっ…や、止めてください…!」 照れ臭そうに顔を赤らめるアリシア。 そんな様子を見ていると、自然に微笑んでしまう自分がいる。 「フフ……」 「なにが可笑しいんですか……!?」 「いえ、なんでもありません」 「むー……」 アリシアは不服そうにもう一度頬を膨らませたが、やがてそれは穏やかな笑みへと変化した。
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