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「あの!?」
千早ちゃんは腕を離して俺を見据える。
「なんだい?」
「なんだい?じゃありませんよ!なんであんなことを…私はアイドルじゃ…!」
千早ちゃんは顔を真っ赤にして怒っている。
俺は溜め息をついて、部屋の鍵を穴に入れた。
「…俺が君の歌を聞きたかったからさ」
「っ…!」
小さく溜め息が聞こえた。
驚きと、呆れが交じった溜め息が。
「…その心遣いには感謝します。しかし私はアイドルなど」
「良いから。歌ってくれないかな?」
「くっ…では…」
そう言うと千早ちゃんはマイクを握り歌い始める。
「泣くことなら容易いけれど…」
伴奏が無いというのにその歌声は鋭く、綺麗だった。
昨日会った時のような感覚が戻る。
時々千早ちゃんはチラリ、と俺を見るが俺が微笑むと彼女はすぐに目をそらす。
彼女が一曲歌い終わるのを聞いて俺は拍手した。
「やっぱりすごいね、千早ちゃんの歌は」
「…有難うございます」
千早ちゃんは俺から目をそらしながらそう呟いた。
「何だ…嬉しそうじゃないな?」
「…嬉しいとかそう言った感情は人に見せては駄目ですから」
…鉄壁だな、うん。
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