第1部 「明星 譲」

4/9
前へ
/300ページ
次へ
譲は幼いころに事故によって家族を失っている。 独り身となった譲は祖父母に引き取られ、 高校生となった今、1人暮らしをしている。 現在AM8:00~ 譲はいつも通り、ゆっくりとした足取りで高校へ向かう。 客観的に見れば 些か不自然にみえる微笑みを絶やさず歩を進める。 のほほんとしていたせいか、 不良風の高校生とすれ違うときに肩がぶつかった。 「ぃってぇな! てめぇ、どこみてやがるッ!」 怒声が朝の住宅街に響く。 「すいません、すいません!」 おどおどしながら譲は頭を下げて詫びる、 が、不良は納得のいかない様子で譲の胸ぐらをつかみ… 「謝って済むと思ってんのか! 金出しやがれッ!」 不良は理屈の通らない注文をしてきた。 譲は困り果てる。 (今日はお金五百円も持ってきてないんだけど…) 不良はイライラを隠さずに制服をつかむ力をさらに込める。 (あー、このままいくと制服破けちゃうなぁ~。 縫うの面倒だなぁ~。) のんきにもそんなことを微笑みを微苦笑に変えて考えていた譲だったが、 そろそろ急がないと遅刻しそうな時間帯であることを感覚的に察する。 (仕方ないか…) 「てめぇ、いい加減―――!」 不良が抑えきれないとばかりに右拳を振り上げた瞬間。 譲の口元が微かに動く。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96人が本棚に入れています
本棚に追加