1人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだい?」
「いきなり気色の悪いことを言わないでもらえる?」
眉間に皺を寄せてキッとアゼルを睨み付ける。
アゼルはそんなことはお構い無しに先刻の言葉を続けた。
「前々から君に興味があったんだよ。
幾多のモノを切り裂いたその腕が、相手を欺くその口が。
全てを嫌うその目が……私は好きだ。」
アゼルは刹那との距離を一気に縮め、 刹那の目の前に立ち塞がった。
「だから私は君が欲しい。
君は人間が嫌いなんだろう?丁度良いじゃないか。」「アタシに触れるな、本当に目障り、アタシの視界から失せろ。」
近付いてきたアゼルの手を払い除け直ぐに距離を取る刹那。
今までにない位の殺気をアゼルに向け懐からは武器も取り出した。
「純銀の釘…ねぇ……」
「今なら大小選べるけど折角だから両方貴方に突き刺してあげるよ」
弾丸の様な速さで投げ込み真っ直ぐアゼルの二点、頭と心臓に向かう。
――あと数cm
しかしギリギリのところでアゼルは霧に変化し姿を消した。
刹那は舌打ちをし辺りを見渡す。
「ははは!
やはり君を欲しくて堪らないよ、刹那!!」
「ッ!何処にいる!!」
声のする頭上を見上げるが、見えるのは霧でぼやけた木々のみ。
アゼルの姿は見付けることが出来なかった。
「近い内にまた会いに来るよ。
だから私が君を手に入れる前に殺されないようにね…………」
その声の終わりと共に辺りを覆っていた霧は風によって消え去った。
1人残された刹那は握り締めていた釘を地面に突き刺しその場に仰向けに倒れ込んだ。
「苛々する!!」
腕を地面に叩き付けることを数回繰返すと少し気持ちが落ち着いたのか上に広がる星空を眺めていた。
「………アタシが殺し損ねるなんて」
女と言えど、今までに数え切れない人間を殺めてきた刹那。どんな状況でも狙った獲物は逃がしたことがなかった。
しかしその言葉が使えることはもう無い。
「苛付くけど……」
何故コンナニ
嬉シサガ込ミ上ゲルノダロウ?
問い掛けても勿論答えは返ってこない。
刹那の言葉は月の光に消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!