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どこまでも続く砂の世界
砂を遮るラクダの睫毛が欲しいと思う
何故こんな所まで来てしまったんだろう……
それすらも思い出せない程の砂嵐
「ここで……死ぬのかな……」
「砂漠の夜は冷えますよ……」
「えっ?」
いつの間にか眠っていたのか?
目の前には砂漠に似つかわしくない女性?…まさかね
「残念ながら私は男性です……」
やっぱり……
だけど美しい男性もいるものだ
真っ黒な髪が風に揺れていた
髪とは対象的な真っ白な
服を纏っていた
「今夜星が騒いでいたのは貴方のせいでしたか」
「星が……騒ぐ?」
大丈夫かこいつ……
じっと顔を見つめた
「あの星が赤いのは何故だか知っていますか?」
「星?」
確かに空には赤い星が
輝いていた
「あの星は引き裂かれた恋人達が流した涙で出来ているから」
「えっ?」
「短いお話をしましょうか……悲しい恋人達のお話を」
「来てくれたんだね」
「うん」
「逢いたかった」
「俺もだよ」
この時代…いや、この国は古くから同性の恋愛は固く禁じられていた
しかし…俺達は出会ってしまった
初めて会った瞬間、恋に落ちた
二度目に会った時にキスをした
そして今日は三度目……
「何も言わないで……」
「言わないけれど、愛してると言わせて」
「愛してる…愛してる」
激しく愛し合いながら何度も愛してると囁く
夜が明けるまで狂おしい程に愛し合い、笑顔で
別れた
「もういいのか?」
「はい……思い残す事はありません」
見張りの男に手錠をかけられ、微笑みながら歩く
僕は妹の為に盗みを働いた
盗んだものは一切れの
パン
しかし、この国では盗みも重罪……
最後の夜に願いを叶えてもらい教会へやって来た
あの人が毎日待っていると言ったから……
「それでは、ただ今よりパンを盗んだ罪により、処刑を行う」
「…………えっ?」
皮肉にも処刑人は愛した人だった……
もっと違う時代に生まれていれば……二人で逃げる事も愛し合う事も出来たのに………
最後に見たのはあの人の涙
それだけで幸せです……
「それで…どうなったんだ?」
「二人で笑っているじゃないですか…あの星でね」
「えっ?」
「生きている辛さより
永遠の愛を手に入れたんですよ」
「永遠の……愛」
「ではまた明日」
「明日も来てくれるのか?」
「貴方が望むなら」
そう言いながら消えて行った
赤い星……か
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