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天皇は紫宸殿へお出ましになつて御覧になられ、文武百官の人々もどうなる事かと固唾を呑み、手を握りしめて之を見てゐた。広有は二人張の弓に十二束二伏の矢を番へ、きりきりと引きしぼつて容易には放さず、鳥の鳴くのを待つてゐた。鳥は何時もより飛び下つて、紫宸殿の上二十丈程の所で鳴いたのを聞き澄して後、弦音高くひやうと放つた。鏑矢は紫宸殿の上を鳴り響かし、雲の間に手答へして、何かは知らず、大磐石の落ちるやうな音がして、仁寿殿の軒の上から竹台の前へ落ちてきた。見物一同の感心する声は、半時程の間どよめいて静まらなかつた。
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