ぬくもり。

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気づけば、手術台と思しき場所で身動きがとれない状態にいた。 かといって手足を縛られている様子でもない。意識を保ったまま全身麻酔をうけたような、または心から体が乖離したとすればこんな感覚なのだろうと、不思議と奇妙な状況でありながらも冷静でいられた。 半ば楽しむ形で時間を消費していると、突然声が聞こえた。頭の方からだ。久しぶりだね、ご主人。その声の主はそう言ったようだ。 頭に直接流れてくる音声はどこか聞き覚えがあったが、どうも思い出せない。それにこの手術台が高い位置にあるのか、声は低い位置から聞こえてきた。 「ここはどこなんだ?」 そう声の主に聞いてみる。全身の運動神経が弛緩しているのか体は首一つ動かないが、言葉は発することが出来るようだと話しかけてみて初めて知った。 私の問いかけに声の主は反応したのか、心なしか大きめの息づかいと少し多く感じる足音を響かせてこちらへと向かっているようだ。 そして私の前、正確には手術台に上がって私の上に姿を現した時、私はその声の主を理解することができた。 「……ライ?」 そこにいたのは、私が以前実家で飼っていた白い雑種の中型犬、ライだった。
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