千春とお守り

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 まだ受験は終わってないのに。  勉強しなくちゃ、学校へ行かなくちゃと焦る一方で、もうなにもしたくない、なにも考えたくないと思っている自分もいる。  時間の感覚がなくなりつつあった。今日と昨日の区別がつかない。このままじゃまずいな、とは思っても自分ではどうしようもできなくて。  ドアが開いた。  そういえば、今日は雨が降っているなとその時初めて気が付く。 「千春、久し振り」  人が立っていた。知っている人だったっけ? 「久し振り」  あたしは機械的に挨拶を返す。 「今日さ、千春にプレゼントがあってきたんだよ。目、つぶって?」  なにを考えるのも面倒くさい。あたしはおとなしく目をつぶる。暗闇の中でふと、彼女はクラスメイトじゃないかと思い出す。それから、彼女とあたしってお見舞いに来てもらえるほどの仲だったっけと首をかしげる。  彼女に動く気配がなく、少し不安になってきた。 「聖? 目、つぶったけど」 「あ、うん」  とっさに出したような声で彼女は言った。それからあたしの手に触れ、何かを握らせる。 「目、開けて?」  あたしは言われたとおりにした。それを後悔した。   それは白い花だった。  あの日、必死で振り払った、見捨てた、あの白い花だった。  あんなに逃げたのに逃げたのに逃げたのにコレハナニ?  走りだしたい衝動を押さえつける。口が勝手に動き、あまり意味のない質問をする。 「千春のために持ってきたんだよ」  この子は一体何を言っているの? 「この『お守り』が枯れちゃって、千春は落ち込んじゃってたんでしょ?」 「なにを言っているの?」 「千春に元気になってもらいたくて持ってきたんだよ」  しとしと。湿気た空気。雨は止まない。 「何でコンナモノ持ってきたの? 枯れた? なんのこと?」  じゃあ律はどうなったの? と続けたかったが、ふふという声がして続けられなかった。
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