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私は大急ぎで家に帰り自室に引きこもった。白い花に囲まれれば咳が止まるものなのだと、なぜか信じ込んでいたからだ。
「げほっうぐっ」
やばいと思った。
とっさにミニタオルで口を押さえつける。喉から熱いものが逆流してきた。
「がはっけほっ、うぇ?」
ミニタオルが赤く濡れていた。驚いて落としてしまう。床に落ちたミニタオルに緑のつたが群がった。
なにかがおかしいような気がする。
ふと見ると、白い花なんてどこにもなかった。部屋中に咲いているのは、赤い……。
頭の中が真っ白になる。
呆然と立ち尽くしていると、つたが足に絡み付いてきた。あわてて振り払おうとしたが、がっしりと掴まれていて離れない。
「げほっごほっぐっ」
学習机に放置してある、鉛筆削り代わりの小刀に手を伸ばす。その手に別のつたが絡み付き、押さえつけようとする。
「げほっうっうわっ」
パニックを起こしかけていた。私は手に絡み付くつたを全力で引きちぎり、小刀で足に巻き付いているつたを切断した。
ぶしゅ、音がする。
赤いものが吹き出して私の手を濡らした。
「あっ、うあっ、けほっごほっ」
つたが絡み付こうとする。私の手に、足に、おなかに、首に……。私は、私は必死で小刀を振るう。
ぶしゅ、ぐさっと赤く生暖かいものがどんどん私を濡らしていく。
白い花が赤に染まり、きれいに輝いていた。
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