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病院の屋上からは、川原が見える。
僕はふと気が付いた。
(あの土手、こないだ一緒に歩いた場所じゃぁ…)
彼女に喫煙の現場を見られてから、随分時間が経った気がする。
10分と言われても頷けるし、1時間と言われても納得すると思う。
けれど実際には、ほんの1、2分しか経っていなかった…
今、僕らは鉄柵に寄り掛かり屋上からの景色を眺めていた。
互いに目を合わせる事も無く、話す事も無く…
(おかしいなぁ…この子に逢いたくて来たはずなのに、今一緒にいるのがツライなぁ…この前はあんなに楽しかったのに…)
ふと、隣を見ると彼女は遠くを見ていた。
川原より、
その先にある公園より、
ぼんやり見える街より…
(あの向こうは…海か?)
いくら目を凝らしても、見える事のない海を、彼女は見つめているようだった。
僕は彼女にかける声を必死に探した。
「この間はゴメン。」
…掘り返したくない。
「海、行きたいの?」
…見つめてるのが海じゃなかったら?
「天気いいね。」
…無難すぎるなぁ。
「…髪切った?」
タモさんかよ…
全然ダメだ。うまく話そうとするほど、メッキがハゲそうだ…
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