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しばらく屋上から動けなかった。
(帰ろ…)
そう思ったのは少し経ってからだった。
(なんで一目惚れなんかしたんだろ…)
傾いた太陽に背を向けて、屋上から出た。
(あんだけかわいけりゃ、彼氏いて当然だよな…)
男の顔を思い出す。
整った顔をしていて、僕なんかより断然格好良かった。
「はぁ~。」
最近ため息ばかりついてるなぁ。
一階まで降りると、当初探していた人に出くわした。
「あっ!孝秋クン、よかった、まだいて。」
大野の姉貴、由花さんだ。
「あぁ、ども。」
適当に返事をすると僕は玄関に向かった。
今は誰とも関わりたくなかった。
「ちょっ、ちょっと待って。あの子から頼まれたものが。」
由花さんはそう言って、僕にオレンジ色の紙を差し出した。
受け取った紙は、折り紙のようだった。
綺麗に畳んである紙を広げると、
『私の名前は雅だから。
また逢えるといいね。』
それだけ書いてあった。
「『私は孝秋って呼ぶから、あいつにも名前で呼ぶように』
孝秋クンに会ったら伝えてほしいって言われたよ。」
由花さんが手紙を見終わった僕にそう言った。
そう言えば屋上で、キミって呼び方がどうとか言ってたな…
「雅ちゃんから聞いたけど、孝秋クン、勘違いしたでしょ?」
由花さんの言葉に混乱する。
「キミの見た男の人は、雅ちゃんのお兄さんよ。」
なんだか恥ずかしくなった。
ベタな勘違いをした自分。
屋上に立ちつくしていた自分。
気持ちを読まれていた自分。
それでもその恥ずしさより、安心感と小さな幸福感の方が大きかった。
僕はすぐにペンと紙を借りて、自分の電話番号と住所を書いた。
そして笑顔で言った。
「『雅』に伝えてください。絶対逢いに来るからって。」
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