屋上~2

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しばらく屋上から動けなかった。 (帰ろ…) そう思ったのは少し経ってからだった。 (なんで一目惚れなんかしたんだろ…) 傾いた太陽に背を向けて、屋上から出た。 (あんだけかわいけりゃ、彼氏いて当然だよな…) 男の顔を思い出す。 整った顔をしていて、僕なんかより断然格好良かった。 「はぁ~。」 最近ため息ばかりついてるなぁ。 一階まで降りると、当初探していた人に出くわした。 「あっ!孝秋クン、よかった、まだいて。」 大野の姉貴、由花さんだ。 「あぁ、ども。」 適当に返事をすると僕は玄関に向かった。 今は誰とも関わりたくなかった。 「ちょっ、ちょっと待って。あの子から頼まれたものが。」 由花さんはそう言って、僕にオレンジ色の紙を差し出した。 受け取った紙は、折り紙のようだった。 綺麗に畳んである紙を広げると、 『私の名前は雅だから。 また逢えるといいね。』 それだけ書いてあった。 「『私は孝秋って呼ぶから、あいつにも名前で呼ぶように』 孝秋クンに会ったら伝えてほしいって言われたよ。」 由花さんが手紙を見終わった僕にそう言った。 そう言えば屋上で、キミって呼び方がどうとか言ってたな… 「雅ちゃんから聞いたけど、孝秋クン、勘違いしたでしょ?」 由花さんの言葉に混乱する。 「キミの見た男の人は、雅ちゃんのお兄さんよ。」 なんだか恥ずかしくなった。 ベタな勘違いをした自分。 屋上に立ちつくしていた自分。 気持ちを読まれていた自分。 それでもその恥ずしさより、安心感と小さな幸福感の方が大きかった。 僕はすぐにペンと紙を借りて、自分の電話番号と住所を書いた。 そして笑顔で言った。 「『雅』に伝えてください。絶対逢いに来るからって。」
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