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この女の子と出会って一時間ほど経ったこと、僕は勇気を出して彼女を映画に誘った。
僕の不安を裏切り、彼女は短く、
「いいよ。」
と言った。
僕らが入った映画は、当時結構な人気があった作品で在り来たりなラブストーリーだった。
当たり前のように彼女の分の券を買い、当たり前のように彼女の分のジュースを買った。
少しは「ありがとう」とか「優しいんだね」とか言うのを期待していた。
…本当に少しだ。
だけど彼女は、
「気ぃ利くね。」
と言った。
まぁ、いいんだ。ちょっと期待しただけだし。
…ほんのちょっと…
映画が始まると、彼女はずっとスクリーンを見つめていた。他の客が笑っても、驚いても、悲しんでも、彼女はただスクリーンを見つめるだけだった。
「おもしろくない?」
と聞いた僕に、彼女は首を小さく横に振った。
結局、映画が終わるまで彼女の表情は変わらなかった。
映画館を出ると、僕らはプラプラと川原を歩いていた。
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