橙色~プロローグ(第一部)

6/8
153人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
この女の子と出会って一時間ほど経ったこと、僕は勇気を出して彼女を映画に誘った。 僕の不安を裏切り、彼女は短く、 「いいよ。」 と言った。 僕らが入った映画は、当時結構な人気があった作品で在り来たりなラブストーリーだった。 当たり前のように彼女の分の券を買い、当たり前のように彼女の分のジュースを買った。 少しは「ありがとう」とか「優しいんだね」とか言うのを期待していた。 …本当に少しだ。 だけど彼女は、 「気ぃ利くね。」 と言った。 まぁ、いいんだ。ちょっと期待しただけだし。 …ほんのちょっと… 映画が始まると、彼女はずっとスクリーンを見つめていた。他の客が笑っても、驚いても、悲しんでも、彼女はただスクリーンを見つめるだけだった。 「おもしろくない?」 と聞いた僕に、彼女は首を小さく横に振った。 結局、映画が終わるまで彼女の表情は変わらなかった。 映画館を出ると、僕らはプラプラと川原を歩いていた。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!