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包帯も取れて、すっかり元気になった八鹿だが、彼の腹部には大きな傷跡が残った。
その傷を見て、苦しそうに顔を歪める少年。それに八鹿は少し苦笑した。
「ごめんなさい。」
何度聞いただろうか、その台詞を繰り返すクラッツに、八鹿は白い手を伸ばして頭をくしゃりと撫でる。
「言ったでしょう、これは私が気を抜いていたから出来た傷だよ。」
私もまだまだだねぇ、と八鹿は笑う。
確かに。彼が本気だったなら、あんな攻撃なんてやすやすと避けられたのでは無いのだろうか
クラッツは、八鹿が傷を完治した後に、一度だけ彼の戦闘を見せて貰った事がある。
とても自分が適う相手には思えなかった。
だから、思い切って聞く事にした。
「どうして、負けたんですか…?」
それを耳にした八鹿は、パチパチと目をしばたかせてクラッツを見つめ返した。
「八鹿さんなら俺の攻撃ぐらい避けれたはずじゃないですか…っ」
クラッツが続けてそう言えば、八鹿は笑った。
クラッツが必死に聞いているのに、八鹿は声を上げて笑ったのだ。
諫めるように名前を呼べば、「ごめん、ごめん、」と言いながら笑いをやっと収める。
「そう怒らないでよ、」
「怒ってません。」
そっぽを向く目の前の少年に、八鹿はまた密かに笑った。
「私ね、水が嫌いなんだ。」
突拍子もなく告げられた言葉に、「は?」と返しても、彼の表情は変わらず笑顔。
「水…ですか?」
「そう。あそこ、水あったでしょ?」
そういえば、闘ったあの場所は滝のすぐ傍だった。
だが、それが戦闘の勝ち負けと何の関係があるのだろうか。クラッツには分からなかった。
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