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闇の中をさまよう、
月が上がるこの時間はとても静かで、生きている気配を感じさせてくれない。
本部に連絡を、
何も見えない暗闇の中、突き動かすのは義務じみたそれだけ。
じくじくじくじく。
傷が痛い。引き摺るように体を前へと進ませる。傷口から流れる血は、地面に赤い斑点をいくつも描いた。
自らのを含む血臭でクラクラと頭が冒されていく。
方向感覚を失ないながらも歩き続け、やっと森を抜けた。
ぼんやりと視界に広がるのは街。
いや、街だったもの。
夜目を凝らせば、灰色の壁で出来た家はどれも大きな風穴が空いていて、瓦礫とその細かい粒子が砂埃となって街全体に充満していた。
これが、戦いの結果。
守りたかった、守っていたはずのものが掌からボロボロ崩れ落ちていく気がした。
虚しさからか、あれだけ握りしめて、もう離れなくなるのでは、と思っていた剣が手を滑り落ちた。
カラン、と乾いた音が夜に響いた。
(ああ、掌に残るのは何?)
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