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「ジュンさんっ!どうして…」
ロノが、何故、と問うが、淳は答えない
答える気が無いわけではない
だが、この目の前の怪物に立ち向かうことに集中している
怪物は角張った体を動かし、自分に炎術を当てた青年を振り向く
「来い…なるべく…こっちだ…」
淳は後退りながら、ぶつぶつと呟く
もう炎術の術式は無い
怪物を打ち倒す作戦は無いのだ
とにかく、ユーリフとロノから、怪物を引き離すことを優先する
予想通り、怪物は徐々に淳へと近づく
よし、と心の中で拳を握った瞬間
石につまずいてしまった
そのまま、尻餅をついてしまう
「…あ…」
それを見た岩の塊は、右手を地面と水平に構える
そして、それは射出され、真っ直ぐに淳へと向かう
「ジュン!」
ユーリフの悲鳴にも似た叫びと共に、淳の周囲に、淡い、四角錐の光の膜が現れる
結界術壁の術式札
結界を発動するのに必要な手順を、最後の一つだけを未達成のまま、紙に術式を貼り付けた物を、最後の手順を行い、結界を発動する道具を使ったのだ
いくら市販されている物といえど、その結界の強さは魔術士のそれと同等である
これだけで大半の衝撃や魔術を防ぐ
ユーリフは安心したものの、術式札の難点は発動持続時間が術者本人が発動したそれより圧倒的に短いことである
このままでは、いずれ結界が解けてしまう
手を突き、なんとか立ち上がろうとするが、やはり回復は不十分で、立ち上がるには至らない
ならば
ユーリフは、手を胸に沿え、ぶつぶつと何事かを呟き始める
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