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王都からやや離れた街道沿いの小屋
行商人くらいしか使わない木造の休憩所に、突如として術式が現れる
「ブハッ!くっそ、ひでぇ!」
火傷を負い、真っ赤になった体に触れ、クラッチは小さく悲鳴を漏らす
「…よもやこれほどとは…」
「術式の片割れ、ここ残してよかった」
ツァイコフとパダが、濡れた服と髪を振るい、水気を落とす
ツァイコフは振り返り、少し救出が遅れたイブニングを待つ
ず、と足を引きずりつつ、濡れた帽子を掴んだイブニングが現れる
「…生きているか」
尋ねたが、答えない
「……ろす…」
ぽつり、と漏らした
「ころす…殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!くそっ!あのガキ共!殺す!殺してやる!」
「イブニング」
ツァイコフが近付くと、銃口が向けられる
彼女はそれを静かにどけると、再び名を呼ぶ
「…殺させろ、もう訪問者だろうが要人だろうが関係ねぇ!次は殺させろ!」
「イブニング!…落ち着け、焦燥感が先行しているぞ」
鼻息を荒げる帽子の女を諌めるように、手を彼女の頭に置く
「…今は、どうやって陛下に詫びるかを考えろ」
手を離し、ツァイコフは適当な位置にあった木箱に座る
詫びる
そんなことは考えもしなかった
自他共に認める実力を持つ自分達が、たった二人、いや三人から、対象を奪取出来ない
忌ま忌ましい事実だ
ぎり、と歯を噛む
「…ちっ…」
苛立たしげに床を蹴る
経験の少ない、敗走の苦み
それは、深く心をえぐっていた
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