その高校生、赴く

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「困ってなんかないよね?」 困っている、と言いたいが、目が恐い 「ほらぁ!先輩困ってるじゃないですか!」 「いやいや、困ってるわけないじゃないって」 「いや!困ってます!」 「だからぁ…」 淳は身の危険を感じ、いち早く次の競技の場所に向かう と言っても、すぐそこなのだが 案の定、待って~、と追い掛けられた それを、一生懸命走って振り切ろうとする淳 出来るかどうかは別として ○ その後、無事記録会を終え、帰宅時間となった この時ばかりは、皆、さっきまでのようには絡んでこない それは、ある事情を知っているからである 「じゃ、僕はもう帰るから」 淳は鞄を持って立ち上がる 「あぁ、じゃあな」 「また来週~」 男子も女子も、同じように挨拶を返してくれる 淳はなるべく早足で自宅へ向かった 淳の家…佐久間家は、学校から歩いて20分ほどで着く 昔ながらの古風な家だ 「ただいま~」 淳は靴を脱ぎ、家へ上がる そして、和室へと向かう 「おじいちゃん、調子はどう?」 淳はふすまを静かに開けながら、中で横になっている老人に呼び掛ける 布団に横たわっていた老人は、上半身を苦しそうに起こす 「あ…あぁ…淳か…うむ…あまり良いとは…い…ヴッホ!オォッホ!」 急に咳込んだ祖父に、淳はすぐに水を渡す 祖父は咳が落ち着いた頃に、水をごくり、と飲む 「ンン…はぁ…ひゅぅ…」 「大丈夫?」 「ん…もう大丈夫…だ」 ふう、と祖父は息をつく 淳も、安堵の息をつく 祖父は、もう半年この状態だ 癌 これが、祖父の身体を蝕んでいる 既に末期になっており、体力も衰えているため、手術は無理だった
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