881人が本棚に入れています
本棚に追加
/1039ページ
「わかりました、それが貴方の意思ならば、我々は構いません、束縛したいわけではないのですから」
「我が儘言っちゃって、すいません」
淳は頭を下げた
女王も頷く
「では、城下にある住まいを提供いたします」
大臣が兵士にいくらか手配をしようとすると、またしても淳は、待ってください、と言葉を遮る
今度は大臣は驚いたような面持ちで、なにか、と返した
「あの…我が儘をもうひとつだけ…」
○
淳の我が儘を聞き届けた後、淳はバルゼンに連れられ、玉座の間から出ていった
メルベリッサは非常に疲れたような顔をしていた
「…陛下、どうかお気を落とさずに…」
なだめようとした大臣の手を振り払う
「わかっていました…こうであろうことは…ガナトとテラの時間軸はずれている…わかっていたことなんです…」
「陛下…」
ガン、とひじ掛けを叩く
「もうあの人には会えない…せめて、もう一目、お会いしたかった…」
落とした視線を天井に向ける
「ゲンイチロウ…」
○
王宮の門の前まで戻ってきた
「ありがとうございますバルゼン将軍」
淳が礼を言うと、いえ、と彼女は荘厳な雰囲気を崩さない
「貴方様を迅速に王宮にお連れするためとはいえ、多少強引な手段を行使してしまったことをお許しください」
「そんなの全然、怖くも痛くもなかったし…」
「…かたじけなく思います」
意気消沈してしまった将軍には悪いが、なんだか変な気分だ
ずっと地位が上のはずの将軍に、頭を下げさせているのだ
申し訳ない反面、ちょっとだけVIP気分だ
しかし、それも今、ここまでだ
これから自分は、ガナト・ヴィスンの一般人となるのだから
「じゃあ、バルゼンさん、ここまででいいです」
「はっ、わかりました、ジュン様、重々お気をつけて」
はい、と淳は元気よく返事をして、彼女に背を向けて歩き出す
その背中を見据えるバルゼンは眉をしかめていた
「しかし、ジュン様はいったい何を考えておられるのか…リヒト・レーゲンなどというチームは聞いたこともない…」
ふぅ、とため息をつく
―――だが…彼が『30年前』の訪問者の孫…
人知れず、微笑んだ
最初のコメントを投稿しよう!