その高校生、赴く

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「わかりました、それが貴方の意思ならば、我々は構いません、束縛したいわけではないのですから」 「我が儘言っちゃって、すいません」 淳は頭を下げた 女王も頷く 「では、城下にある住まいを提供いたします」 大臣が兵士にいくらか手配をしようとすると、またしても淳は、待ってください、と言葉を遮る 今度は大臣は驚いたような面持ちで、なにか、と返した 「あの…我が儘をもうひとつだけ…」 ○ 淳の我が儘を聞き届けた後、淳はバルゼンに連れられ、玉座の間から出ていった メルベリッサは非常に疲れたような顔をしていた 「…陛下、どうかお気を落とさずに…」 なだめようとした大臣の手を振り払う 「わかっていました…こうであろうことは…ガナトとテラの時間軸はずれている…わかっていたことなんです…」 「陛下…」 ガン、とひじ掛けを叩く 「もうあの人には会えない…せめて、もう一目、お会いしたかった…」 落とした視線を天井に向ける 「ゲンイチロウ…」 ○ 王宮の門の前まで戻ってきた 「ありがとうございますバルゼン将軍」 淳が礼を言うと、いえ、と彼女は荘厳な雰囲気を崩さない 「貴方様を迅速に王宮にお連れするためとはいえ、多少強引な手段を行使してしまったことをお許しください」 「そんなの全然、怖くも痛くもなかったし…」 「…かたじけなく思います」 意気消沈してしまった将軍には悪いが、なんだか変な気分だ ずっと地位が上のはずの将軍に、頭を下げさせているのだ 申し訳ない反面、ちょっとだけVIP気分だ しかし、それも今、ここまでだ これから自分は、ガナト・ヴィスンの一般人となるのだから 「じゃあ、バルゼンさん、ここまででいいです」 「はっ、わかりました、ジュン様、重々お気をつけて」 はい、と淳は元気よく返事をして、彼女に背を向けて歩き出す その背中を見据えるバルゼンは眉をしかめていた 「しかし、ジュン様はいったい何を考えておられるのか…リヒト・レーゲンなどというチームは聞いたこともない…」 ふぅ、とため息をつく ―――だが…彼が『30年前』の訪問者の孫… 人知れず、微笑んだ
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