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「でも、無視するにしても、道はあの怪物がいる所か、あっちの」
淳は視線を少しずらして、もう一つの道を向く
「見つかるかもしれない所しかないよ」
何とも弱気な声色だ
はあ、とユーリフはため息をつく
「少し考えればわかるわ、どっちが危険かぐらいはね」
「そ、それはそうだけど…」
「怖じけづいたのなら、さっきもロノが言ったように、あなただけでも戻るべきよ、はっきり言って、邪魔で仕方ないわ」
ずき
「ユーリフちゃん…」
「言い過ぎではないはずよ、恐いのなら、来ない方がいいわ」
ユーリフは淳を見ずに、冷ややかな言葉を浴びせる
「緊張感でガチガチの身体じゃ、どんな致命的なミスをするかわからないわ」
否めない所を突かれた
怖じけづいているのは確かだし、強そうなモンスターを見た恐怖もある
そのせいで、身体が固まっているのも確かだ
あのモンスターのゴツゴツした腕で殴られたら
あの巨体に押し潰されたら
出てくるのは、嫌なイメージしかない
「…わかった…小さな荷物は置いていくから、後は…」
「こっちでやるわ、あなたは入口にいて、何か危険なことがあったら、すぐに逃げなさい」
「え…逃げるって…」
「ほら、荷物を置いて、分けてくれる?必要な物は治療薬と…」
ユーリフの指示に従い、小さなリュックサックに道具を入れる
少しだけ、空しい作業だった
「結界術式と、救助用の術式の使い方はわかるわね?」
頷く
「じゃあ、早く戻りなさい、直に私達も動くわ」
二の腕を叩かれ、送り出された
少し進んで、振り返る
ユーリフはこちらを見ていた
早く行け、とも、気をつけて、とも暗に言っているような気がした
つまづいたのを機に、淳は前を向いた
もう振り返らなかった
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