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  娘は俺の服の襟を掴み、無理矢理部屋の外に引っ張る。 「じゃ、ちょっと借りるから」 最高に爽やかな笑顔を彼女に見せ、手を振っている。 あー… 俺に明日は無さそうだ。 ここから見ると分かるが、こめかみに青筋がたっている。 何が起きたか解らず、混乱している彼女の顔は扉の向こうに消えた。 「さて……」 いよいよか…… 「悪いけどお仕置する前に話があるから、一度下に降りて」 ……あら? 拍子抜けだな。 てっきりムーンサルトプレスからのキャメルクラッチが炸裂するかと…… 「何? お仕置が先の方が良いの? ……全く、こッの変t」 「ほーい、近所迷惑になる前にさっさと降りるぞー」 娘の台詞を遮り階段に向かう。 「ちょっ……もう、このバカ兄ぃ!!」 後ろから俺の頭に向かって張手をかまし、先に行って手摺を乗り越え、そのまま下に飛び降りた。 一瞬、娘の腰まで伸ばした髪が重力から解放され浮き上がり、落ちる身体と一緒になびいて落ちていく。 「ってぇ、……全く」 頭を擦りながら階段を降りる。 居間に着く頃には娘がジュースを置いて既に待っていた。 「それで? 話って何よ?」 「私が買い物に行った時なんだけど、変な人に声掛けられたの」 「変な人?」 「そう、変な人」 俺は顔をしかめた。 「だって、この暑い日……と言っても夕方だから涼しくはなってたけど、その人は上下黒のスーツでサングラスかけてたの」 「……そりゃ変な奴だな」 「しかも体はガッチリしてるの、それに言ってる事……聞いてた事か、それも変わってた」 「ふーん、何聞かれたんだ?」 ジュースを飲みながら聞く。 「うん、『この辺で、猫耳を付けた女の子を見なかったか』だってさ」 飲んでいたジュースが気管に入り、思いっ切り咳き込んだ。 「ちょっ! 兄貴てば汚いって!!」 「す、すまん……」 むせながら答える。 ちょっと待て。 彼女を探してる奴が居るのか!? 奴等が話の通じる相手ならまだ良いが、目撃者を消す様な奴なら非常にまずい。 黙々と考えていたら娘が勘づいたらしい。 「……兄貴、あの子がそうなんだね」 少しの間黙っていたが頷き、肯定した。 「またか……、この間は『商品』拾ってトラブって、次は猫少女かい! どうすんの? ただで済む相手じゃなかったら」 俺は少し考える。 とは言っても、相談する相手はここには居ない。 「とりあえず後で考えるわ」 そう言って話を打ち切った。  
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