一.幼い頃の経験

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僕が泣かなくなったのは、いつからだったのだろう。きっとお母さんが亡くなった時からだ。 あの時は本当に悲しかった。まだ幼稚園に通っていた頃だった。  今日は母親の命日。お父さんと電車に乗りついで約一時間、駅から歩いて約三十分の所にある墓地。そこにお母さんが眠っている。 「到着したね。お父さん」  僕がお父さんに言う。お母さんの眠る墓に立ってお父さんが墓に向かって語りかける。 「美咲、覚えているかい。君と俺の子だよ。こんなに大きくなった、もう十二歳だよ。」 僕の頭に手を置き撫で始める。お父さんはなんだかいつもと違った。 いつもはニッコリして優しそうな顔をしているお父さんが、今は悲しそうは顔をしている。 僕は泣きたいのに泣けない。別に強がっている訳じゃない。ただ涙を流せなくなってしまっただけ。  墓参りが終わり、乗る電車が来るまで時間があったので、お父さんに少し付き合ってくれと言われた。 お母さんが眠っている墓地から一五分程、歩いたところにある小さな公園。そこでお父さんとお母さんが初めて出会った場所であり、プロポーズをしたところ…らしい。 公園には小さなブランコやアスレチックなど後、展望台みたいなのがある。 お父さんはブランコに座り 「お父さんはね、ここでお母さんに告白したんだ。」 そういうとお父さんは立ち上がり展望台へ一歩ずつ歩きだし、お父さんは何かボソっと小さな声で何かを言った。 気づけば展望台から見た景色は夕焼けで、なんだか寂しく思えた。 お父さんは「帰ろう」といった。  公園を後にして駅に向かった。 「お父さん、今日の夕飯は何。」 電車に乗りお父さんに話しかけた。 「何か食べたい物とかあるか。家に帰る途中で何か買って帰ろうと思うんだけど。」 「うーん…特に食べたいものはないけど、手作りハンバーグが食べたいかな。」 手作りハンバーグは僕の大好物で、よくお母さんが作ってくれた。お父さんが作ってくれるハンバーグは劣るけど、それもまた美味しいのだ。
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