人魚の歌

初めての

私が最近よく外へ出るようになったのは

“あの人”のせい

せい、といっても、一方的に……だけど

……だから、メルにも言えないんだよね……
絶対また心配かけちゃうし……。

そんな考えをめぐらせながら、しばらく海中を泳ぐと、少し小さな島に着く。

いつも通り海中から様子を探って、静かに岩場の影に入る。

彼はちょうど、砂浜付近にはいないようだった。

食べ物…探しに行ってる…のかな？

岩場から離れて、そろそろと波にのりながら砂浜に近づく。

波が届かない程度の場所まで上がって、すばやく食べ物を置き海に戻る。

ふぅ……今日もなんとかうまくいった……。

いないとはわかっていても、見つかってしまうのではないかといつもドキドキする。

今回もなんとか成功して、ほっと胸をなでおろす。

最近私がいない理由はこれ。

彼に食べ物を届けているから。

といっても人間が食べている魚とかを採ったりはできないけれど……。
私たちが食べている海藻とか……ぐらいなら。

無いよりは……いいよね？

と、自分に思わず問いかける。