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遠い海の沖合。
ゆったりと海の中を進む女性。
長い髪が、速さにあわせてふわふわと流れる。
髪と同じように揺れるのは、魚の尾ビレ。
海上から差し込む陽の光に、鱗がきらきらと煌めく。
陸上歩行の代わりに自由自在に海中を泳ぐ権利を与えられた人魚。
彼らの歌声は美しく、人を魅了してやまない。
けれど……
「……あっ、ちょっとあの子、噂の……?」
「そうそう……あの子だよ」
「まさか……歌を歌わない人魚がいるなんて……ねぇ?」
「本当、何を考えているのかしら……」
少女とすれ違った人魚達は、彼女を奇異な目で見、噂話を口にする。
人魚にとって歌とは、存在価値そのものと同じくらい、切っても切り離せないもの。
それを捨てた人魚がいるなど……
そんなことはありえない事だったのだが……。
「おまけに、言葉まで話せないなんて……」
「歌う事を忘れたからよ。本当に人魚なの……?」
すれ違う人魚達は、皆口を揃えて同じ事を言う。
あの子はおかしい
人魚じゃない
そんな噂話にはもう慣れてしまったし、反論する気もおきない。
……出来ないけれど。
だって本当の事だから。
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