きっかけ

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「でも、この先には行かないほうがいいよ。もうすぐ嵐がくる」 「あっちの海上で歌ってた人魚達も戻ってきてるもの」 嵐がくるんだ…… さすがの人魚も、好んで嵐の中に飛び込んだりはしない。 今日はただ、散歩をしたかっただけだし……。 わかった、とうなずいてみせた、その時。 私達のところに ふわりと影がかかる。 上を見上げれば、海面に一隻の船の影。 その進む方向。 それはまさに、これから嵐がくるという方向。 『海上で歌っていた人魚も――……』 ――――まさか 「……エマ!」 弾かれたようにメルのほうを向く。 するとメルは少し苦しそうな顔をしていて……。 「だめだよエマ…人間に関わっちゃいけない」 でも……と思った私の気持ちは、顔にも表れていたみたいで 「だめ!これ以上、人間の事を気にかけちゃだめだよ」 「だってエマが歌えなくなったのだって……!」 私の肩に手をかけて、苦しそうに顔をゆがめる。 それ以上を口にはしないけれど、暗に「人間のため」と語っている。 うん……その通りだね ……でもやっぱり、見過ごす事なんて出来ないんだ。 ごめんね、メル 少し微笑んでから、メルの手から逃れる。「エマっ……」 メルの声が後ろから聞こえる。 悲しませているよね きっと ごめんね…… でも進む方向は変わらない。 遥か遠くに行った船を、追いかける。
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