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「人魚の歌」
それに魅せられた者は、何も手につかなくなり、ただただその歌声に聞き惚れる。
その結果、船が座礁したり、難破したりする。
なので多くの船乗りは恐れ、人魚の歌に出くわさないよう祈りながら航海をする。
が、この世の物ではないほどの歌声を、一度この耳で聞いてみたい、という愚かな者も、小数ながら存在するらしい。
航海中に人魚の歌に魅了される、それはその者の死を意味するのと同じことである。
真っ暗闇の中、風と波と雨の音しか聞こえない。
波同士が激しく打ち付けあい、あたりは大きな濁音が響いている。
さらには激しい豪雨。
強風に煽られて顔中に雨が打ち付ける。
太陽はかすりも見えず、当たり前のように明かりはない。
辺りは暗闇に包まれていた。
追い付いた船はすでに転覆していて、暴風雨と波に打ち付けられボロボロであった。
辺り一面には、船のカケラである木の板が浮かんでいる。
ひどい……
辺りは明かりもなく、雨のせいで視界も悪い。
なので海の中に潜り、生きている人間をさがす。
けれど探しても探しても、そこにいるのは冷たい人間ばかり。
目を開ける者は誰もいない。
誰も……生きていないの?
あの時と、同じ
一人勢いよくかぶりを振る。
きっとまだ生きている人間がいる。
そう信じて、更にさがし続けた。
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