one-turn

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「はぁ、はぁ、ッく」 私は走っている。 いつも通り、凛ちゃんと 話をしながら帰って。 いつも通り、 販売機の前で別れて。 いつも通り、家に着いて。 そしたら、ご飯を食べて、 明日の化学のテスト勉強をして。 いつも通り、朝がくる。 そのはずだった。 なんて、なんで、なんで… 頭はさっきから この言葉を繰り返す。 でも、 いつも通りはもう来ないと、 血が流れ続けている左手が笑う。 5分前、 突然腕を切られた。 驚いている暇もなく そこからの行動は早かった。 生きる。 ただその衝動に従った。 対抗するなんて 考えもしなかった。 助けを呼ぶなんて 思いつきもし無かった。 生きたい一心で走った。 恐怖を押し潰されそうになる。 でも、もうすぐ家。 後、200メートルもない。 心が軽くなった気がした。 だけど、私が生きるには あまりに遠すぎた。 「ねぇ、待って」 凍った。 時間が、身体が、ココロが。 頭では、いつの間に? なんて 不要な考察が行われていた。 そんなことは お構いなしに彼女は続ける。 「動かないでよ。 手元が狂うでしょ」 そういう彼女の笑みは、 とても魅力的だった。 「ッ!」 逃げないと。 でも、足は凍り付いたまま。 私の意思では動かない。 「あなたは邪魔なの」 死。 それを嫌なくらい感じる。 「あ、  あ ァ」 言葉はでない。 音が口から漏れるだけ。 「さよなら、名も亡き人」 迫り来る刃を 避けることも出来ず。 私の意識は 二度と戻ることはなかった。
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